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駕籠かきのお代は・・・建長寺 
2015/02/06 Fri. 20:28 [edit]
むかしむかし、長谷の駕籠かきが、江の島までの客を送っての帰り、とっぷりと日が暮れて暗くなった極楽寺の切りとおしを下りて坂の下の入り口、磯端あたりへ来かかると、一人の女に呼びとめられました。
建長寺まで送ってくれというのです。
棒鼻に吊るした小田原提灯の光で透かしてみると、その女の着ている着物はびっしょり濡れているようです。
これはきtと身投げをしそこなった女に違いない、こんな者を乗せて何かのかかりあいなってはつまらないと思った駕籠かきは、声をそろえて、もう家へ帰るところだからだめだ、と断わりました。すると女は、これをあげるから行っておくれ、と云いながら、小判を一枚差し出しました。思いがけない大金を見せられると、それでも嫌だと断わるわけには行きませせんでした。
女を乗せて、二人は走りだしました。乗せてから気がついたのは、この女がずいぶん重たいことです。しかし駕籠かきは、これは着物が濡れているせいだろうと考えて、そのまま走り続けました。
狭くて険しい巨福路坂を越して、やっと建長寺の門前に着きました。しかし女は山内へ入って方丈の辺まで行ってくれと云います。仕方がないので、云われた通り方丈の近くまで行くと、ここでいいと云って女は駕籠を降りました。
そして、駕籠かきに、後を振り返ってはいけないよ、と言い残して方丈の庭の方へ歩いて行きました。
駕籠屋は、だんだん薄気味悪くなって、急いで帰りかけました。まだいくらも歩かないうちに、後の庭の方で何か大きな水音がしました。駕籠屋が驚いて振り向くと、夜目にも白く水煙りが高く立って、その水煙りの中に、ちらりと龍の姿が見えました。
びっくり仰天駕籠屋は,がたがた震えながら方丈へ駆けつけ、このことを和尚さんに話しました。だが和尚さんはちっとも驚いた様子もなく「ああ、あれはここの池の主じゃ。この間から房州へ行っていたのが帰ってきたのじゃろう。」と云いました。
駕籠屋は、あわててさっき貰った小判を出してみると、それは見たこともないような大きな鱗でした。
龍が、自分の鱗を一枚剥いでくれたのです。
出典 かまくらむかしばなし 沢 寿郎
龍がすむ方丈裏の池
方丈裏の庭園は国史跡になっています。
category: 鎌倉市
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